はじめて中山隧道を見た時の衝撃は、今でもはっきりと覚えています。
当時、手掘りのトンネルは開放されており、途中まで行ったものの怖くなって引き返しました。
坑口の説明看板には「地域の有志が、子や孫のために922mをツルハシだけで掘った」と書いてあり、これまで感じたことのない衝撃を受けたのです。なぜか?それはそこに公共事業の原点を感じたからです。
インフラが整備されていなかった時代と違い、新幹線や高速道路のような大規模プロジェクトでも、ムダな公共事業だと批判を受けるほど便利な社会になり、「モノ」と「インターネット」がつながって、考えることなく移動できるようになったことに危機感を感じています。
また、気象災害に関してもハード・ソフト両面で行政任せが当たり前となり、デジタルな情報に命を委ねているとも言えます。
そのような「モノ」と「インターネット」がつながる今こそ、その意識(忘れ去られた不便さ)を変える必要があるのではないでしょうか?
忘れ去られた不便さを、どう感じるのが良いかを考えてみました。
まずは、ドボクが持つそのスケール感を体で感じる事、そしてそれを「本気」で面白がることが大切なのではないかと考え、それぞれにテーマを設けて周到な準備を重ねて実行に移しました。実行したテーマと内容及び移動手段の難易度は下の表のとおりです。
1.「命がけの道」を体感する | ||
①なぜ消えた?親不知第一世代の道 | 親不知第一世代の道を漕ぐ歩く | SUP(E)・カヤック(C)・水中歩行(B) |
②豪雪の中山峠で公共事業の原点体感 | 「命のトンネル」豪雪の中山峠越え | スノーシュー(C)・山・テレマークスキー(D) |
2.長大トンネルの歴史と偉大さを体感する | ||
③久比岐自転車道と頚城トンネル |
自転車でモグラ駅の謎を解く |
自転車(A)+鉄道 |
④清水峠で「道の終わり方」を考える |
長距離ハイクと新清水トンネル |
長距離ハイク(E)+鉄道 |
3. 全方向から見る土木遺産 |
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⑤惣郷川橋梁を3回楽しむ方法 |
海・道・鉄道から見る土木遺産 |
SUP(E)・カヤック(C)+鉄道+道路 |
⑥デ・レイケ導流提と筑後川昇開橋 |
干満差を利用した土木遺産巡り |
SUP(E)・カヤック(E)+道路 |
4.昔の本流を漕いで水害の歴史を知る |
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⑦約500年前の信濃川(西川)を漕ぐ |
大河津分水~川の立体交差 |
SUP(D)・カヤック(C) |
⑧285年前の阿賀野川(通船川)を漕ぐ |
阿賀野川~信濃川と山ノ下閘門 |
SUP(B)・カヤック(B) |
A:未経験者可(気象条件の影響少)B:未経験者可(気象条件の影響あり)C:未経験者可能(ガイドツアー条件)D:要経験者(気象条件の影響が少)E:要経験者(気象条件の影響が大)※SUP:スタンドアップパドルボード
移動手段は必ず人力(道具使用可)とします。但し、現役のトンネルや橋梁は片道で鉄道等を利用します。
1. SUP:橋梁や河川構造物を体感するには最高の道具で、カヤックより機動性が良いが、バランスが悪く風に弱いのが難点です。しかし、追い風及び干満差を利用して潮にのるような計画を立てると、デ・レイケ導流提や親不知第一世代の道などを、よりダイナミックに、そして快適に体感できます。
2. カヤック:重くて運搬がきついのですが、シットオントップ艇なら安全でSUPより初心者向きです。
3. 水中歩行:シュノーケリングと考えたほうが無難です。SUP・カヤックでの伴走が望ましい。
4. スノーシュー:スキーにくらべて沈み込みが大きく体力を消耗しますが、中山峠(中山隧道)などでは昔の移動を再現するのには最も適しており、「命のトンネル」を実感できる最も適した道具です。
5. 山・テレマークスキー :スキーにシールを貼って登行し滑って下るので、経験者にとってはスノーシューより断然楽です。但し、雪崩や雪山の知識と装備が必要です。
6. 自転車:輪行と走行が楽なロードバイクが理想ですが、折りたたみ自転車やMTBでもOK。最近ではサイクルトレインなどの試み(えちごトキめき鉄道に確認)もあるようです。
7. 長距離ハイク:清水峠(土樽~土合)は、標高差約900mで歩行距離が25kmと長いこともあり、周到な準備(歩行ペース・装備等)が必要です。歩いた後に新清水トンネルを電車で走る抜けると、そのありがたみが身にしみます。また、トレイルランニングという考え方もあります。
海や川を下るにはカヤックやSUP、雪の峠越えはスノーシューやテレマーク・山スキーが必要となり、高価な道具と豊富な経験が求められることから、一般向けではないという課題があります。但し、昨今の「モノ」の消費から「コト」(体験)の消費へと世の中の指向が変化する中で、プロのアウトドアガイドによる初心者を対象にしたスノーシューやカヤック体験ツアーが増えており、間口は確実に広がっています。したがって「初心者向けガイドツアー」と「体で感じるドボク」とのマッチングが実現すれば、一般向けツアーが可能となります。これらをマッチングさせるためには、イベントへの参加やSNS・口コミなどを利用して、土木関係者・趣味人・プロのガイドとのつながりを構築していくことが重要となります。
ドボクには必ず大きな物語が存在しています。
ドボクには他の産業遺産よりはるかに大きく深い物語があるのに、それをまだまだ一般の人にアピールできていないのではないでしょうか?
近年、ダムマニア・マンホール女子・暗渠マニア等に加え、一般の人のインフラツーリズムへの関心の高まりを感じています。
また、NHK『ブラタモリ』の人気に見られるように、「地形とその土地の成り立ち」について知りたい!と思う人たちによる、まち歩きも確実に増えています。今後はますます、「地形とその成り立ち」の先にある土木構造物を五感で感じたい、そして知りたいと思う人が増えていくでしょう。そのような好奇心旺盛な人たちを飽きさせてはいけません。長大な土木構造物の魅力を伝える最大の手段は、自分のチカラ(歩く・漕ぐ・泳ぐ・こぐ)を使う「コト」です。
時代は「モノ」の消費から「コト」の消費に転換しつつあります。また、働き方改革による時短や健康志向の高まりにより、体を鍛える人も増えていくでしょう。
そのような人たちに、五感を超えて「体で感じるドボク」に関心を持っていただけるよう、コツコツと努力を重ねていきます。